大山くまおのぼんやりブログ

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『映画けいおん!』未発表レビュー

今度11月24日に開かれる、アニメ評論家・藤津亮太さん主催の「アニメレビュー勉強会」という講座にゲストとして参加することになりました。

参加者は作品について2000字程度のレビューを書いて事前に提出し、それを勉強会で合評するというものです。僕は藤津さんの横でやいのやいのと合いの手を入れる係になります。プロ志望者向けの講座ではないとはいえ、参加者同士がお互いのレビューに点数をつけあうというシビアな面をあわせ持った勉強会です。

アニメについてのレビューを書く、読む、という機会が、アニメについての活字がたくさんあるわりには少なくなっている昨今ですが、興味ある方はぜひ参加してみると面白いと思います。

僕も以前、一度、ふつうに参加してみたことがあります。プロのライターや編集者の参加率が高いところもこの勉強会の面白いところです。そのとき、書いたのが『映画けいおん!』に関するレビューでした。このレビューは合評で第2位を獲得し、かなりホッとしたことを覚えています。

というわけで、前置きが長くなりましたが、そのとき僕が書いたレビューを掲載するので、ご一読ください。最後に勉強会へのリンクも貼っておきます。

映画けいおん!』について 大山くまお

 

 『映画けいおん!』で僕がもっとも印象に残ったのは、「Singing!」が流れるエンディングの映像だ。この作品はテレビシリーズと対応しており、両方あわせてひとつになるという寄木細工のような構造を持つ。その意味では、物語と直接かかわっていない映画版のエンディングは、緻密な構成からはみ出したような存在であり、おしゃれでカッコいいイメージを羅列しているだけのようにも見える。しかし、けっしてそうではない。この場面にはいくつかの映画が引用されており、それぞれに『映画けいおん!』が持つ意味がしっかりと込められているのだ。

 

 順番をひっくり返すことになるが、まずは白いバラの繁みの向こうにいる放課後ティータイムのメンバー5人のシーンから見ていこう。カメラは、微妙に手ぶれしながら寄り添う少女たちの姿を捉える。退色したフィルムで映し出された、柔らかで美しい映像だ。このシーンはソフィア・コッポラ監督の『ヴァージン・スーサイズ』(99年)を元にしている。13歳から17歳までの姉妹が、誰からも穢されることなく美しいまま自らの命を絶つ。繊細な思春期の少女たちの暴走を描いた、いわゆる“ガーリーカルチャー”の頂点に君臨する作品だ。山田尚子監督はソフィア・コッポラへの興味を明言しており、実写映画を撮るとしたら彼女のように「生っぽい感覚で女の子を撮ってみたい」と語っている(※)。ちなみに『けいおん!』も『ヴァージン~』も、主人公の少女の数は同じ5人である。

 

 彼女たちが揃いの制服のような服を着ているのは、『ピクニックatハンギング・ロック』(86年)からのイメージだろう。この映画は、名門女子学園の生徒たち数名がピクニックの途中で忽然と姿を消した事件を幻想的に描いている。謎の多い作品だが、少女たちは永遠の時を求めてこの世から去っていったのではないか、という解釈はいまだに多くの人を惹きつけている。


 「HELTER SKELTER」と書かれた回転式滑り台は、イングランド南東部にある都市ブライトンの観光名所ブライトン・ピアの小さな遊園地にあるものだ。また、澪が布を持って歩き、メンバーが憂鬱そうな表情で演奏する真っ白な崖が印象的な場所は、ブライトンからバスで1時間ほど離れた白亜の断崖絶壁、セブン・シスターズである。この2か所は同時に訪れる観光客がとても多い。なぜなら、どちらも映画『さらば青春の光』(79年)の舞台だからである。60年代のイギリスを舞台に、大人たちの世界に反抗するモッズの若者たちをファッショナブルに描いた青春映画の傑作だ。


 唯たち5人がユニオンジャックに包まれている画は、イギリスを代表するロックバンド、THE WHOのドキュメンタリー映画とそのサントラ『キッズ・アー・オールライト』のビジュアルである。THE WHOは律がドラマーのキース・ムーンの大ファンだったり、唯がギタリストのピート・タウンゼントの風車奏法をやっていたりと、『けいおん!』ファンにもおなじみのバンドだろう。『キッズ~』の1曲目に収録されている「マイ・ジェネレイション」は、数多くの楽曲が流れる『さらば~』の中でも象徴的な1曲だと言っていい。古臭くて頭の固い大人たちに対し、若者たちが“俺たちの時代”を突きつけた歌詞の中にこんな一節がある。「俺たちは年寄りになる前に死ねばいいと思ってる」


 バンドは解散する。青春は終わる。そこに永遠の二文字は、ない。唯の「大学行っても、みんなでお茶できるよね?」という問いかけに対し、聡明な憂は「もちろん、できると思うよ」と返答を濁している。唯たち3年生は学校を卒業し、梓は学校に残る。やはり、放課後ティータイムも永遠ではない。


 山田監督は先のインタビューの中で『けいおん!』の続編について「個人的にもまだやりたいけど、今終われば美しい」と語っている。『ヴァージン~』も『ピクニック~』も、少女たちが穢れのない美しい少女のままであろうとしてこの世から消える作品だった。唯たち5人がたわむれていた庭園に楽器だけが残されている姿を見ると、一瞬ドキッとする。彼女たちも永遠を求めて消え去ってしまったのだろうか? 放課後ティータイムは「マイ・ジェネレイション」を歌うのだろうか?


『さらば~』のラストシーン、主人公の少年はモッズの象徴ともいえるバイク・ベスパをセブン・シスターズの崖から海へと落とす。実は『さらば~』の冒頭には主人公がしょんぼりと崖を歩くシーンがあるのだが、このラストシーンの続きを意味するのではないかという解釈がある。ベスパを海に落とした彼はあらゆるものに反抗していた青春の季節に苦い別れを告げ、つまらない大人になるという意味だ。


 澪が白いバラを崖から落とすカットは、ベスパを海に落とすシーンに対応している。唯たちは「美しい」ままでいられる庭園を飛び出して、これから大人になっていくのだ。しかし、しょぼくれたままの『さらば~』の主人公とは違い、彼女たちは崖の上を一斉に走りはじめる。目的地はさだまっていないし、穢れてしまうこともあるだろう。でも、仲間がいれば怖くはない。将来離ればなれになるかもしれないけど、今はまだ、怖くはない。彼女たちはこう歌う。「道なき道でも進もうよ 一緒に踏み出すそこが道だよ」


 つらくなったら目をつむればいい。暗闇の中で思い出される、あの頃の記憶が支えてくれるはず。そう、「ふわふわ時間」が流れはじめるはずだから。


 山田監督が『けいおん!』の終わりに彼女たちに贈った餞別が、このエンディングなのだ。

 

 

※続編が望まれる映画 「けいおん!」山田監督 「ソフィア・コッポラみたいな女の子の映画を撮りたい」クランクイン!2012年3月1日
http://www.crank-in.net/game_animation/news/14108

書こうと思ってなぜか書き忘れていたのですが、澪が崖から捨てた白いバラの花言葉は「純潔」です。

 

藤津亮太の「只今徐行運転中」http://blog.livedoor.jp/personap21/archives/65722291.html

チャンネルはいつもアニメ―ゼロ年代アニメ時評

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